Episode16:「技術」は考え方もいろいろフクザツなわけで・・・。

皆様、本年もよろしくお願いいたします。
東京も初雪が大雪で大変だったようですが、北海道の冬も今年は雪も寒さも特に厳しいです。札幌ももう3週間以上真冬日(最高気温が氷点下)が続いています。

 

除雪作業の様子。こうした作業が冬の鉄道運行を支えています。

除雪作業の様子。こうした作業が冬の鉄道運行を支えています。

私たちの世界では、先輩から「最低気温-20℃以下が3日続くといろいろ影響が出てくるぞ。よく注意して目を配っておけ!」という教え(経験則)がありますが、実際その通りで、何日か過ぎていくといろいろな部品が凍結するなどの冬型特有の事象が徐々に出てきます。寒くなって「すぐ」ではなく「3日後」というのがポイントです。

北海道の鉄道車両は、-35℃でも運転できる耐寒耐雪仕様になっているのですが、1行路で数百kmを一気に走るため、比較的寒くないところや極寒地、晴れているところもあれば地吹雪の中を走るなど、毎日様々な違った環境の中を走行するので、複雑な要素が絡んで影響が出てくるのです。その蓄積で表に出てくるのがだいたい「3日後」というわけです。

これらの事象を重ねて、一つ一つを予測するのは、非常に複雑で大変ですが、これをざっくりまとめると、昔から伝わる先ほどの先輩の教えの一文に集約されているのです。

日本の鉄道は、世界でも一番安全、ダイヤも正確だと言われます。鉄道は巨大なシステムインフラですが、それを制御する人間の能力や鋭い感受性、いわば「匠」の技なくして、成り立ちません。運行制御はほぼ自動化されていますが、その元となるダイヤは「スジ屋」と言われる輸送のエキスパートの存在があり、車両や設備の保守もベテラン作業者の五感がモノを言います。中央道の天井崩落事故でも問題になりましたが、打音検査などその典型例といえるでしょう。音だけではなくそのときの手に感じる感覚や見た目などを総合的に判断しているので、なかなか全てをセンサで自動化するのは難しいのです。

(※ちなみにスジ屋の仕事については、
http://www.nhk.or.jp/professional/2010/0202/index.html
などご参照ください。他社の例ですがそのアナログぶりがお分かりいただけると思います。)

鉄道技術、さらに今の私の仕事である「ものづくり」も、こうしたベースに成り立つ技術であり、「インテグラル(すり合わせ)」という視点こそがものづくりの基本と教えられてきました。このすり合わせとは、組み立てた後に熟練工が「仕上げ」をすることに始まり、設計においても個々の部品やモジュールを切り離して開発するのではなく、モジュールが連携したときに最も良い結果が得られるように、モジュール自身に変更を加え調整してモノを創っていくことを言います。

先日乗ったB787-8型機(@伊丹)。現在深刻なトラブルが多発していますが、インテグラルの視点で課題解決しなくてはいけない典型ではないかと個人的には考えます。先日乗ったB787-8型機(@伊丹)。現在深刻なトラブルが多発していますが、インテグラルの視点で課題解決しなくてはいけない典型ではないかと個人的には考えます。

先日乗ったB787-8型機(@伊丹)。現在深刻なトラブルが多発していますが、インテグラルの視点で課題解決しなくてはいけない典型ではないかと個人的には考えます。

この「インテグラル型」の対極にあるのが「モジュラー型」と呼ばれる水平分業型の視点で、簡単に言うとパソコンのように、標準化されたマザーボードや電源、プロセッサなどを組み合わせて、モジュール間の調整を必要とせず、機能と構造をそれぞれ分けたものづくり技術です。こうするととてもシンプルにはなりますが、鉄道のような複雑系システムでは、すぐに転換することは難しいということは分っていただけると思います。

しかし、私たちを含め製造業などあらゆる業界で、この匠の技術や職人技といった無形の暗黙知が次の世代に受け継がれていかない「技術継承」が問題となり、IT化により暗黙知を形式知化、つまり見える形に標準化や体系化ができないかということに取り組んでいますが、なかなか上手くいきません。

作業の様子を動画で残す、作業をマニュアル化するなど、ITを駆使して私もいろいろチャレンジしていますが、姿や形で見えても「勘どころ」はどうしても表現できないと最近気づきました。つまり「インテグラル技術」をモジュラー化しようと思ってもうまくいくはずがないということです。

それでは、職人に弟子入りして認めてもらえるまで、がんばり抜いて育てるか? 心構え(気合い)としては必要な要素だと思いますが、要求事項は増えて人手も足りない状況では、そんな時間をかけているわけにもいきません。さきほどお話した、目には見えない「勘どころ」ですが、これも本当に人の五感に頼る部分と、経験則が格言になったような部分に分かれると思います。前者は人から地道に学ぶしかないのですが、後者は体系化できるのではないかと考えています。

最初にお話した、極低温が3日続くといろいろな事が起こるというのが好例で、それを裏付けるいろいろな事象や故障などがあったはずです。過去に遡れる部分やこれからでもそういうデータを積み重ねていけば、その理由が徐々に定量的にまとめていけるわけで、100%ではないとしても、確率論で予測や事前に予防的な手を打つことができると思います。となると、より膨大にデータを集めていかなくてはいけない、こここそITの出番です。暗黙知を理論化し、これをシステムに組み入れて、インテグラル技術をモジュラー化していく、そんなプロセスが重要だと思い、いまいくつかのプロジェクトに取り組んでいます。

もちろん正しいかどうかはわかりませんが、少なくともこれまでよりはベターなアプローチだと思っています。明快な解答などあるわけがないのですが、地道に試行錯誤して見つけていくしかないようです。

最後に今回のお話に関連して、特に技術系の方にお奨めの本を一冊紹介します。

ものつくり敗戦 ~「匠の呪縛」が日本を衰退させる~
(木村英紀著、日本経済新聞出版社 2009)

指摘一つ一つが私の胸に刺さり、自分が典型的日本技術者の思考であることを認識させてくれました(笑)。刺激的なタイトルですが、ただ日本人のプライドに訴えるでもなく、ものづくりをどう伸ばしていくことができるのか、面白い視点で書かれていると思いました。

 

ブログ執筆者執筆者:Asoo

北海道にて技術屋稼業もはや15年。鉄道システムエンジニアとして、もう少しで一人前と認められるかな?というところで、数々の壁にぶち当たり、試行錯誤を繰り返し五里霧中の日々を送る。仕事では、” Think globally, Act locally ! ” を信条としながらも、時には北海道のゆったりした空気に身を任せて「明日は明日の風が吹く」と自然体を大切にする。この「ゆるさ」が醸し出す雰囲気が、どうも私の特徴のようだ。結構切羽詰まっていながら、このように日々のほほんと過ごしている私の、鼻歌みたいな独り言をお送りします。

 

シリーズ : Let tomorrow take care of itself ! (明日は明日の風が吹く!) 記事一覧へ

 


カテゴリー: Let tomorrow take care of itself ! (明日は明日の風が吹く!) パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です