企業と学生のわかったようでわからない溝

前回は、文科省が8月27日に発表した「平成24年度学校基本調査(速報値)」の中から「大卒で正社員として就職できなかった人が昨年12万8千人」という数字と2011年9月時点で「雇用保蔵者数」465万人という内閣府の発表を比べて感じたことを述べました。

両者は人件費総枠の中ではトレードオフの関係にありますが、人数で見ると大卒無業の12万8千人は社内失業者465万人の2.8%です。これに中高年の賃金水準と新卒者の賃金水準の差を掛ければ、おおよそ雇用保蔵1%の人件費を新卒に振り向けるだけで、全部吸収できます。


もちろん雇用のミスマッチはそんなに単純な問題ではありません。12万8千人も就活に失敗している現状でさえ、募集しても人が来ないと嘆く中小企業は多いのですから。そして、人が来ないと嘆く中小企業ですら採用基準を下げません。

これは、結婚しない(できない?)人が増えているのと似たような現象にも見えます。自分を省みず結婚相手に好条件を求めたり、結婚生活のネガティブなイメージがあって躊躇したり、まあ一人でもコンビニがあるから良いかと思ったり、心理的には似ているかもしれません。

この考え方の違いによる不幸なミスマッチは就職を望む学生と採用したい企業の双方にあるように思えます。企業と学生にどのような認識の違いがあるかデータから見てみましょう。

企業が学生に求める能力の調査としては最も広く認知されている経団連の「新卒採用に関するアンケート調査」(2012年4月入社対象)が下記です。

選考にあたって特に重視した点

ちなみに今回もダントツだった「コミュニケーション能力」は9年連続1位です。

大学生でこのブログを読んでいる方もいると思いますので老婆心ながらひとこと。これを見て「学業成績は求められていない」と短絡するのは大間違いです。上の方に並んでいる項目と下の方に並んでいる項目はタイプが違うのです。その上このアンケートは上位5項目を選択する方式ですから、上の方の「求めて当たり前」と思われる項目を5つ選ぶと、それ以外は入らないという仕組みになってます。

むしろ比較可能な、「出身校/所属ゼミ/研究室」の2倍、「クラブ活動/ボランティア活動歴」の2.6倍、「保有資格」の10.8倍も「学業成績」が重視されていることに注目する必要があります。学生が職業体験と勘違いしやすいアルバイト経験に至っては企業が求める項目にすら入らないのです。

また、これを昨年と比較したものが下記です。
昨年との比較
わずか1年の比較ですが、興味深い傾向が出ています。

柔軟性(5.9%)が増え専門性(▲8.7%)が減り、チャレンジ精神(4.3%)が増え協調性(▲5.2%)が減りました。これが増減の上位2項目ですから、どうやら企業はとんがった人材を求め始めたようです。

もう一つの調査を見てみましょう。

経済産業省が平成21年度就職支援体制調査事業として行った「大学生の「社会人観」の把握と「社会人基礎力」の認知度向上実証に関する調査」によればさらに企業と学生の認識の差がわかります。

※こちらの調査はn=1179社、非上場企業が80%となっていますので、経団連調査より若干小さな企業が多いかもしれません。

社会に出て活躍するために必要だと考える能力要素【対日本人学生・対企業】

学生にしてみれば、企業研究・業界研究は就職に必要ですからそれを重視されるのではないかと思い、企業にしてみれば、そんなことは入社すればだれでも覚えると思うでしょうから、このミスマッチは想像がつきます。一般常識のギャップもそもそも「一般常識」とは何かの認識からして違うのでこれも当たり前かと思います。むしろ主体性のギャップがパーセンテージから見ても要注意です。

いずれにしてもこれは想定の範囲かと思いますが、それでは、求められる能力がどれほど身についているかはどう認知しているでしょうか。

学生が既に身に付けていると思う能力要素
この二つを比べてみると、「粘り強さ」や「チームワーク力」は企業も学生も必要だと認知しており、その差はあまりありません。それに比べて「身についている」かどうかという認識には著しい差があります。つまり、必要性のところで企業も学生もともにその必要性を理解していると思った「粘り強さ」や「チームワーク力」なのですが、その求められる水準やあるいは質が全く違っているようです。

このあたりの言葉からイメージされるものの具体的内容の違いをすりあわせていかないと、わかったつもりでも双方のギャップは埋まりそうもありません。さらにこの話は次回も続きます。

 

ブログ執筆者執筆者:堀口 卓志

(株)ドラゴン・ラボラトリーズ代表。
なんのこれしき仕掛人。

 

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