マゾヒストじゃいけませんか?

本日はモチベーションに関する試論を述べたいと思います。

ご承知の通りモチベーションは普遍的なテーマです。マネジメントもマーケティングもこれ抜きには話が始まりませんし、経営学、心理学系はもちろん、経済学も社会学もおよそ人間を中心とする学問分野の中心課題はモチベーションに還元されると私は勝手に考えている次第です。

で、30数年それと関わり、飯の種にもしてきたわけですが、結論から申しますと、いよいよモチベーションが分からなくなったというのが実感です。もちろん、今までだってモチベーションが完全に分かっていたわけではありません。しかし、「なるほどそうだな」と思える理論があり、またそれを裏付けるデータがありました。モチベーションという非常に重要な問題にアプローチする上での足場があったのです。

しかし個人的には、今日ではその足場が信頼にたるものかどうか疑問を感じています。少なくとも現在の日本において、これらの従来の枠組みを無条件に信奉していてよいのだろうかと危惧しております。

学者の論文じゃありませんから、それを証明できるデータを揃えたお話ではありません。少々暴論を述べますが、ご自分の周囲の方々や、ご自身の心境に照らしてお感じのことがあれば是非コメントしてください。

話の足場として多くの皆さんがご存知の、「マズローの欲求段階説」と「ハーツバーグの二要因理論」、そしてそれらが現代にも通用することを証明してくれたダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」を下敷きに使います。他にも動機付け理論はあまたありますが、根幹の部分については今日でもこれが足場であることは変りません。
そこでちょっと横着をします。「モチベーション3.0」の内容紹介をAmazonより拝借しました。

〈モチベーション3.0〉とは何か?コンピューター同様、社会にも人を動かすための基本ソフト(OS)がある。

〈モチベーション1.0〉…生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOS 。

〈モチベーション2.0〉…アメとムチ=信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるOS。ルーチンワーク中心の時代には有効だったが、21世紀を迎えて機能不全に陥る。

〈モチベーション3.0〉…自分の内面から湧き出る「やる気!=ドライブ!」に基づくOS。活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気!」の基本形。
(宣伝文は以下省略)

要は「マズローの欲求段階説」や「ハーツバーグの二要因理論」のリメイク版のようなもので、ダニエル・ピンク氏ご推奨の「モチベーション3.0」は、マズローの「自己実現欲求」やハーツバーグの「促進要因」に該当するようです。

彼は、「モチベーション 1.0」(マズローで言えば生存欲求)や「モチベーション 2.0」は「アメとムチに駆り立てられる動機づけ」で、内面から湧き出るやる気に基づく「モチベーション3.0」こそが、創造性を要する高度な知的業務に携わる現代の労働者には効果的だと主張します。

さてここからが私の疑問です。もし相手がマゾヒストだったらどうなるか。

彼は女王様のムチを渇望していたとしたら、その後わずかにしか与えられないアメにも無上の喜びを感じるとしたらどうでしょう。「内面から湧き出るやる気に基づくモチベーション」といわれても(まあその道では放置プレイというのもあるようですが・・・)、やっぱりアメとムチが欲しいと思うならば、それがモチベーションの源泉ではないでしょうか。

ここで、アメとムチに引っかけてマゾヒストの例を持ち出すのはいかにもいかがわしいと思われたかもしれませんが、要は、たで食う虫も好き好きというか、ムチに喜ぶ人もいるという事を申し上げたかったのであります。

現実に各種の調査データをみると、動機付け要因の中でハーツバーグのいう衛生要因、ダニエル・ピンク流に言えばモチベーション 2.0アメムチスタイルを好む層が徐々に勢力を伸ばしている傾向が見られます。これを持って日本のクリエイティビティの脅威ととらえ、「モチベーション3.0」へのシフトを図るべきでしょうか。

例を挙げます。たとえば「飲み会に行かずに老後のために貯蓄する大学生」とか「細かく指示命令してもらわないと安心できない管理職」とか「海外に出たくない商社マン」といった、私にとっては女装趣味のマゾヒストぐらい理解しがたい人々が世の中に増殖している感があります。

しかし、女装趣味のマゾヒストの方々が、無能、怠惰かというと、統計データを見たことはありませんが、平均値を上回る知性とクリエイティビティを持っていても不思議はないわけです。同様に衛生要因に強く動機づけられるタイプの人材が、創造性を要する高度な知的業務に向かないかというと、どうもそれははなはだ疑問です。

人間の性格や価値観は確実に社会の影響を受けます。高度成長期に育った私の価値観、尺度で、生まれてこのかた右肩下がりの世界しかみていない若い人たちを評価するのは、そもそも評価軸がおかしいかもしれません。

過去20年間の日本の状況が若い人たちに与えた社会的影響がどのようなものであったか考えれば、むしろ衛生要因により敏感に反応するのは自然の成り行きであり、そちらがマジョリティになったとしても全く不思議はないと思います。

そして、そのような人材を活かし、また動機づけられないならば、それはマネジメントと言うには値しない机上の空論です。むしろ、そのようなメンタリティを持った優秀な人に対する効果的なモチベーション2.0の今日的なあり方に、さらに研究の余地があるのではないかと思う次第です。

とりあえずギリギリ許される範囲の暴論ということで、最後までおつきあいいただきありがとうございました。

 

ブログ執筆者執筆者:堀口 卓志

(株)ドラゴン・ラボラトリーズ代表。
なんのこれしき仕掛人。

 

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